兵庫県知事選挙における日本ファクトチェックセンターにの認定と法律家の認定との相違

 今回のコラムでは、昨年の兵庫県知事の選挙後に日本ファクトチェックセンターという団体がYahoo!ニュースで事実認定を行っておりましたので、法律家の視点で同センターの行った事実認定と法律家の事実認定を比較していきたいと思います。

 なお、私自身はあくまで事実認定の手法の比較という観点のみで本記事を書かせて頂いておりますことを予めご確認下さい。今回は分かりやすくパワハラの部分のみで行わせて頂きます。

1 日本ファクトチェックセンターにおける事実認定

 Yahoo!ニュースを確認する限りでは、

① パワハラをしていないという事実は、認定できず、その理由としては、言説が根拠不明というもの

② パワハラをしたという事実は、事実認定し、その理由はアンケートで知ったと回答した人等を含めて4割程度いたこと、本人が厳しい叱責、机をたたいた、必要な指導を行ったというもの

2 法律家の事実認定

 あくまで上記の同じ論理過程のみで、結論どのように認定するかを遡っていこうかと思います。

(1) ①パワハラをしていないと事実認定について

 一般にしていないことの立証は、悪魔の立証と言われており、ほぼ不可能と言われております。したがって、していることの立証ができなければ事実上していないと認定されるのが一般的ですので(法律上立証責任ということになり複雑な問題が絡んできますが、簡略化すると以上のようになります)、法律家としてはこれだけでは認定できず、ここは。、日本ファクトチェックセンターと同様かなといった印象を持っています。なお、法律家であれば、言説自体は検証をしないのではと思われます(そもそもないことの立証ができない可能性が相当高いですし、言説レベルでは反対事実の検証自体も行わないと思われます)。

(2) ②パワハラをしたという事実認定について

 法律家の通常の事実認定では、アンケートで認定をする可能性は高くないのではと思われます。あくまで多くの場合という大前提ではありますが、誰が見ても変更のない客観証拠、供述一致がある部分以外はその人に事実確認を入念にしないと裁判所は認定しません(これがよくテレビドラマなどである尋問手続きです)。安易に匿名での話をベースるにすると、虚偽の供述をベースとして事実認定されることも少なくありませんので、法律家はそのような形での認定はしないのではというのが正直なところです。

 そうなると、日本ファクトチェックセンターが認定しているものの中で、事実認定できるものは厳しい叱責、机をたたいた、必要な指導を行ったという事実かなと思います(これはいわゆる供述一致です)。あとは、これらがいわゆるパワハラに該当するかと検討する必要があるのが法律家の認定になります(この部分は、事実認定というより、「評価」というように一般的に言われるかと思います)。

 厚生労働省の定義するパワハラの定義は、以下です。

 職場において行われる㋐優越的な関係を背景とした言動であって、㋑業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、㋒労働者の就業環境が害されるものであり、㋐から㋒までの要素を全て満たすもの

 これらを前提にすると、特に(2)の要件が今回認定される事実だけでは果たして満たすのかがかなり疑問です。他に認定される事実であったり違う背景があればともかく、正直あくまで私の感覚では、法律家の認定としてパワハラと認定できず、日本ファクトチェックセンターの認定は法律家の事実認定とはかなり違うかなという印象を持っております。

3 まとめ

 そもそも、今回は日本ファクトチェックセンターの事実認定及び評価に意見するつもりは全くなく法律家である私が事実認定、評価するとどうなるかというものをお知らせしたに過ぎません。日本ファクトチェックセンターは、おそらく法律家が行う事実認定とは違う方法で行われていると思いますので、どのような過程で行われているのか確認してみたいと思ったのが私のこの記事を読んだ感想でした。

 法律家の事実認定は、上記のような作法で行われるのでなかなかハードルが高いと思って頂ければ幸いです。なお、他の事実等を踏まえて、合理的なストーリーを組み立てることができ、それに裁判官が納得してくれればまた話は別ですが、そのようなことができないとなかなか事実認定のハードルは高いということになります。

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