養育費を払わない相手方に対してどう対応すべきか ―不払いの正当理由の有無、強制執行手続き、弁護士に依頼すべきケースを徹底解説―
離婚離婚後に取り決めた養育費は、本来、子どもの生活や教育を支える重要な資金です。しかし、実際には「相手方が約束どおりに支払ってくれない」「支払ったり支払わなかったりで不安定」「そもそも連絡が取れなくなった」というご相談は非常に多く寄せられています。
この記事では、養育費不払いが発生した場合にどのように対応すべきか、また強制執行を行うべきケース・避けるべきケース、そして弁護士に依頼するメリットについて、実務経験に基づき分かりやすく解説します。
目次
まず養育費不払いに「正当な理由」があるか確認しましょう
すべての不払いが直ちに相手方の責任になるわけではありません。まずは、「法的に見て、そもそも相手方に養育費支払い義務が残っているか」を確認する必要があります。
養子縁組がされている場合
お子さんと再婚相手が養子縁組をしているケースでは、法律上、一次的扶養義務者は養親(再婚相手)となります。
そのため、
- 原則として実親に対する養育費請求権が消滅する
- 実親が過去に取り決めていた養育費の支払い義務も終了する
という扱いになります。
この場合、実務上も弁護士としては、元配偶者に養育費を請求することはお勧めできません。
その他、収入減少など「正当理由」がある場合
病気や事故で収入が大幅に減った
勤務先の倒産で一時的に支払いが困難
といったケースでは、事情によっては「減額の可能性」があります。
ただし、自己判断で支払いを止めることはできません。
正当な理由があるかどうかは、法的観点で丁寧に検討すべき部分です。
相手方の不払いに正当な理由がない場合の対応方法
正当な理由がないにもかかわらず養育費を支払わない場合は、法的手続きを通じて支払ってもらうことが可能です。
ただし、どの手続きを選ぶべきかは、当初の養育費の取り決め方法によって大きく変わります。
公正証書でなく「合意書」のみの場合の対処方法
合意書だけでは強制執行できない
離婚協議の際に当事者同士で作成した「合意書」には、執行力(相手方が支払わない場合に給与差押え等を行う力)がありません。
そのため、合意書だけでは、
- 給与の差押え
- 預貯金の差押え
といった強制執行は不可能です。
合意内容を裁判所の書面に格上げする必要がある
強制執行を行えるようにするには、次のいずれかの方法で、内容を「裁判所が作成した公的な書面」に変える必要があります。
家庭裁判所で養育費請求調停を申し立てる(最も一般的)
-
- 調停で合意すると「調停調書」が作成され、これは執行力を持ちます。本調書を前提に強制執行を行うことが可能です。
地方裁判所で合意に基づく養育費請求訴訟を提起する
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- 判決または和解調書が得られれば強制執行できます。
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ご自身で進める場合は、手続が比較的分かりやすい養育費調停がお勧めです。
弁護士に依頼する場合は、調停だけでなく訴訟も含めた選択肢から最適な手続きを提案できます。
公正証書・調停調書(離婚調停、養育費調停等)・審判・判決などがある場合の対処方法
すでに強制執行力のある文書が作成されている場合、相手方が支払わなければ強制執行(差し押さえ)が可能です。
- 強制執行には「債権の所在把握」が必須
給与差押えを行うには勤務先を、預貯金の差押えを行うには銀行名・支店名を把握する必要があります。
これらを把握していれば、比較的スムーズに手続きを進めることができます。
- ただし、すぐ強制執行すべきとは限らない
実務では、
- 勤務先が変わりやすい仕事に就いている
- 財産がほとんどない
- 強制執行を行うと関係が悪化し、相手方がかたくなになる(しっかりと調整すれば、未払い分を一括での支払いもあり得ます)
などの事情を踏まえて、強制執行をするか、いつするかも慎重に検討されます。
特に給与差押えは相手方の職場に通知が行くため、
「本当に今やるべきか」
を慎重に見極めることが重要です。
弁護士によって見解が異なる部分でもあるため、ご自身の価値観と合う弁護士を選ぶことを強くお勧めします。
強制執行を行う上で注意すべきポイント
本当に強制執行しか方法がないか再確認
相手方が財産を隠すおそれがある場合を除き、必ずしも急いで強制執行すべきとは限りません。
強制執行は「最後の手段」であるため、まずは任意の支払を促し、関係悪化を防ぐメリットも考慮する必要があります。
相手方財産の調査
差押えを行うには、
- 勤務先
- 銀行
- 不動産の有無
など、相手の財産状況を把握する必要があります。
弁護士に依頼すれば、
- 弁護士会照会(特に金融機関に対する調査で全店照会という方法があり、支店を特定せず調査することができることも少なくないです)
- 改正された民事執行法の財産開示手続等(対応しない場合罰則の規定も新設されてます)
などの専門的な調査手段を使えるため、成功率が上がります。
時効の確認
養育費にも時効があります。
未払いが長期間続いている場合は、時効中断の対応が必要ですので、早めに専門家へ相談してください。
弁護士へ依頼するメリット
状況に応じた最適な対応ができる
「今強制執行すべきか」「調停にすべきか」「減額請求に反論できるか」など、法的な判断を伴う問題を最適な形で整理できます。
煩雑な手続きを任せられる
書面作成、申立て、相手方との連絡、証拠整理などをすべて任せられるため、精神的負担が大きく軽減されます。
財産調査の幅が広がる
弁護士でなければ利用できない調査方法(弁護士会照会など)を活用することで、相手方の財産把握が正確になります。
よくある質問(FAQ)
Q1 面会交流が実施されない場合、養育費を払わなくてよいのでしょうか?
いいえ、払わなくてはいけません。
面会交流と養育費は全く別の権利義務関係にあり、原則として関連しません。
面会交流ができないことを理由に養育費を停止することは認められていません。
Q2 不払いの相手方の会社に「養育費を払っていない」と直接伝えてよいですか?
基本的にお勧めできません。
名誉毀損やプライバシー侵害に該当する可能性があり、トラブルが拡大するリスクがあります。
給与差押えをする場合は、法律に基づく正式な手続で会社に通知されますので、勝手に伝える必要はありません。
Q3 相手方の財産を調べる方法はありますか?
弁護士であれば、
- 弁護士会照会
- 住民票の取得
- 不動産登記事項証明書の調査
など、法的に認められた方法で調査が可能です。
ご自身では調べられない情報も多いため、正確な調査には弁護士依頼が有効です。
まとめ
養育費の不払いは、子どもの生活に直接影響する重大な問題です。
しかし、
- 養子縁組があるか
- 合意書なのか公正証書なのか
- 相手方の財産状況はどうか
- 強制執行のタイミングは適切か
など、検討すべき事項は多岐にわたります。
養育費の不払いでお困りの場合は、自己判断で進める前に、一度弁護士に相談し、最適な戦略を立てることを強くお勧めします。
適切な対応をとることで、回収の見込みは大きく変わります。

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弁護士登録後、全国に支店のある事務所で4年程度勤務弁護士として執務しておりました。その際には、相続、慰謝料請求、離婚、監護権争い、労働審判、建築訴訟、不動産売買、消費貸借、契約に基づく代金支払い請求、交通事故、顧問先様の契約書チェックや日頃のご相談といった具合にそれこそ多種多様な事件に対応してきました。このような多種多様な事件の中で私が一貫して考えていたのは、対応方針、案件を進める方針に納得して依頼して頂くことでした。私自身、方針を明確に示さないこと、それに対して十分なご説明をせずご依頼頂くことはお客様にとって不誠実であると考えておりますので、その点に焦点を充てさせていただきます。また、方針の決定に際しては、お客様のご意向(金銭的補償に重点を置きたいのか、早期解決に重点を置きたいのか、違う部分に重点があるのか)が特に重要と考えておりますので、それについてご意向を反映させた方針を共有させて頂きたいと考えております。